一房、一房を、丁寧に。
『ベジ&フル北本』酒井雄作さんのシャインマスカット

毎年訪れる旬を楽しみに、近所の直売所を訪れる。
それは、これまで考えもしなかったけれど、まちとの新しい関わり方のような気がする。
高嶺の花のようなイメージの強いシャインマスカットは、そんな関わり方がよく似合うかもしれない。
知らないから遠い存在も、知っていると何だか近い存在に感じられる。
それが地元の北本でできるなら、どれだけ楽しいだろう。
そんな旬を求めて、北本駅からほど近い、中山道と国道17号の間、そんな市街地のど真ん中に位置する「ベジ&フル北本」さんにお邪魔した。


取材に訪れると、一枚の折込チラシを渡してくれた。その紙には当園の特徴と題して、こう書かれてあった。

***

・最新の非破壊糖度計で一房、一房、糖度のチェックをして収穫します。完熟果の当日収穫、販売と鮮度を大事にします。
・房の大きさを制限し、甘さ、味のバラツキを少なくしています。どの房、どの粒も基準以上の甘さを保証します。
・味を第一に販売しますので、量販店に並んでいる「シャインマスカット」とは、見た目が異なることがあります。

*** 

ぶどうのエキスパート

「おかげさまで去年はほとんど完売することができました。」
 
自信を滲ませながら、取材を受けて頂いたのは、ここでシャインマスカットをイチから育て上げた酒井優作さん。
 「シャインマスカットはここ数年で人気に火が付いた品種で、皮まで丸ごと食べられて種が無く、甘くて食べ応えのある果肉が特徴ですね。」

ぶどうの棚の下を歩きながら、取材をスタートする。まずは酒井さんの経歴から伺った。
「こちらに来たのは5年前ですね。以前は埼玉県の農業技術研究センターでぶどうの研究員をやっていました。」
 
ちょうど定年を迎えたタイミング、それも酒井さん自身、これまで培って来たことを実践してみたい、そんな想いも抱えていた頃にベジ&フル北本さんに誘われた。
しかし、いくら専門的な知識があっても、シャインマスカットは決して楽に収穫できるものではない。

欠かせない手間。

「ぶどうって、果樹の中でも一番、年間の作業時間が長いって言われているんですよ」

 特に高品質なシャインマスカットをつくるために、欠かせない作業が、摘粒と言われる作業だ。
巨峰などの黒色や紫色のぶどうでは、ぶどう1房にたくさんの粒をつけすぎると、実の色が薄くなってしまう。
対して、黄緑色のシャインマスカットは1房に何粒付けても、実の色は変わらない。
つまり色を気にしないでいい分、粒を付けようと思えば1房に150粒くらい付けることもできる。


実際、スーパーや量販店にはひしめき合うほどたくさんの粒が付いた、シャインマスカットも少なくないと言う。
しかしそれでは粒の大きさも小さく、何より、本来の味が落ちてしまうのだ。
だから粒を大きくするためにも、粒が1房に35粒くらいには納まるように、粒抜きの作業を一房、一房、手作業で行っていく。
考えただけでも気の遠くなるような作業だが、シャインマスカットの味をつくるには欠かせない手間。もちろん、大変なのはこれだけじゃない。

「その適正な着果量と摘心ですね」
 
ぶどうはつる性のため、放っておけば遥か高みを目指して伸びていく。つまり伸び過ぎないように、切っていくしかない。しかし人の髪だって、ひと月かふた月に一度も切れば充分なのに、つるはひと月も待ってはくれない。

「半月、いや十日もすれば伸びて来ますからね」

その繰り返し。最もこれはつる性の果樹であれば、当たり前なのかもしれない。しかしその当たり前の繰り返しにこそ、専門家らしさが光る。

変わらない姿勢。

たとえば、野菜にしろ、果樹にしろ、栽培にはいつだって病気はつきもの。中でもぶどうは雨に弱いと言う。

「ほとんどの病気は雨で伝わって来ますからね。だから今年の露地のぶどうは大変だったって聞きますね」
 
 今年はこと梅雨には悩まされた農家は多いはず。しかし、悪天候で収穫のタイミングこそ難しくなったものの、ベジ&フル北本さんは、ハウス栽培ではないが、雨の日はビニールで屋根をかけることで、雨を回避している。つまり病気にもかかりにくいのだ。最もハウスじゃないだけに虫は入って来る。

「でも虫は、いつ発生するかって言うのがだいたい分かっていますから、対策ができます。それにここは市街地だから、そんなに虫は来ないですね」

 雨の対策に加えて、化学肥料をできるだけ使わないように、牛糞堆肥を使ったり、それこそ栽培方法も短梢と長梢、どちらも試したり。その姿勢はやはり研究員の姿だ。

とにかく美味しいぶどうを。

しかし中でも酒井さんのこだわりが浮かび上がるのは収穫の時かもしれない。

「年によってどうしても違うんですけど、糖度は20くらいで獲るようにしていますね」

それも収穫の際に一房、一房、丁寧に3粒ずつ非破壊糖度計で計っている。この千五百平米ほどの広さに、いくつの房ができているのかと考えただけでも、途方もない作業だ。

「うちの直売所は試食できるんですけど、試食すると必ずお客さんは買っていかれますね」
 
笑顔の奥に自信を滲ませながら、酒井さんはそう言ってくれた。でもきっとお客さんが思わず買ってしまうのは、酒井さんが研究員の頃と変わらない姿勢で、シャインマスカットづくりをしているからかもしれない。少なくともわたしはこの取材をしただけでも、毎年この時期には、そのにじみ出たおいしい旬を楽しみに足を運ぼうと思う。

文 江崎成哉

※本企画は埼玉県NPO基金の助成を受けて実施しています。


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直売所情報
「ベジ&フル北本」(黒澤農園)
〒364-0007 北本市東間4‐103
048-542-9826
※9月から10月中旬まで「シャインマスカット」の収穫時期のみ
※お越しの際はお電話でお問い合わせください
※2020年は10月17日(土)が最後の直売となります(2020年10月15日追記)
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