北本の「農」にまつわる様々なストーリーを、取材を通してお届けする&greenCALENDAR。
kosa10magazine.を主宰する、北本市在住のライターNariya Esakiさんの視点で、農家さんの人となりを探っていきます。
取材編集/暮らしの編集室
いとうふぁーむの熟成「紅はるか」
自然のサイクルの中で
北本市郵便局のはす向かいにある、ゲオの駐車場にある直売所がずっと気になっていた。しかしなかなかきっかけがないと直売所というのは、足を踏み入れにくい。でもゲオに来るたびに、今日こそはと思っていたら、今度そこの取材をすると聞いて、早速わたしは取材の数日前に足を踏み入れた。お店に入ると、焼き芋のいい匂いがする。
しかし、それ以上に目を見張るのは、野菜の種類の多さだ。10坪ほどの店内にはたくさんの野菜が並んでいた。その数は年間で120種類程にも及ぶという。もうここに来るだけで、季節の野菜は充分に楽しめそうな数だ。それもすべて同じ農家さんで生産しているというのだから驚きだ。でもそれは取材に訪れてからの話。その前にわたしは、焼き芋を片手に家に帰ると、妻も、3歳と1歳の子どもたちも、甘い甘いと言いながら、あっという間に平らげてしまった。本当に甘くて美味しいのだ。
まさに冬のスイーツと言っていいかもしれない。そんな話を取材中に伝えると「まだまだですよ、12月過ぎるともっと甘くなりますよ」と言われてまたびっくりしてしまった。今回はそんなさつまいもを作る、いとうふぁーむさんにお邪魔した。
むかしながらの方法
「昔ながらの方法でやっているだけなんですけどね」
いとうふぁーむさんは、今回取材させて頂いた伊藤博之さんで19代目とその歴史は長い。だからこそいとうふぁーむさんの農には業にならない、営みとしての方法がまだ残っているのかもしれない。
「落葉を敷いて、もみ殻や米ヌカを入れて、水を撒いてっていうのを何層にも繰り返して、踏み固めて、苗床を作っています。」
そのひとつがこの苗床作りだ。いとうふぁーむさんのさつまいも作りは、まずここから始まる。落葉は自身が管理している雑木林や、近所から集められて来たものを使用している。この集められた落葉は2〜3年の周期で腐葉土に変貌する。そこに、もみ殻や米ヌカを入れることで、微生物が落ち葉を発酵させ、その熱で短期間で堆肥となるようにしている。そこに前年収穫した厳選されたさつまいもを伏せていき、芽が出たものを切っていく。それを苗として、畑に植えていく。それを繰り返すこと3回。定植の数は合計12500本。家族総出の作業だ。
「落葉を使ったさつまいもの苗床は、昔から続くあたりまえのやり方です。うちは今でもヤマ(雑木林)を持っていますから」
この雑木林を持っているのも、いとうふぁーむさんの大きな特徴のひとつと言えるかもしれない。
「ここのさつまいも畑は、元々は雑木林でそれを興した畑なので、肥料も入れないし、特に手はかけていないですが、4〜5年に1度は1.5mほど下から、パワーシャベルで掘り起こしているんですよ」
いわゆる天地返し。もちろんそれは雑木林が隣接しているため、竹などが進出して来るからというやむを得ない理由もあるけれど、これをすることによって土を入れ替え、水はけをよくしている。
つまり腐葉土と同じように、土を活き活きとさせているのだ。さつまいもの葉に虫食いが目立つのもその証拠のひとつと言えるだろう。だから最初に葉に少量の消毒は行うが、それ以外は収穫までは何もしない。つまり、そんないい土だけで、さつまいもも生き生きと育っているのだ。そんなさつまいもの収穫は8月から霜の降りる前の10月頃まで行われる。この霜が降りる前というのは、さつまいもが10度以下になってしまうと風邪を引いてしまうからだ。つまり保管方法もこの10度以上を保てる場所がなければならない。
自然の貯蔵庫
「昔ながらの保存方法で、室(ムロ)を使ってやっていますね。しかも採れたては、あまり甘くないんです。だから10度以下にならないように長い間熟成させる必要があります。うちでは最低1〜2か月は熟成させて販売することを徹底しています。そうすると12月の末頃にかけて、しっかり甘みがのってきますよ」
冒頭のまだまだと言われた理由は、ここにあるのだと思った。もちろん10月頃に購入しても8月に収穫したものが、しっかり1か月以上は熟成されている。それ以上になれば、さらに熟成されていることになるため、当然さらに甘みは増すと言うことだろう。
この室(ムロ)も実際に見せてもらった。2mほどの縦穴を降りると、二手にちょうどL字型になるように横穴が伸びている。天井を見るとコンクリートではなく、根っこが顔を出しているのが分かる。まさに天然の貯蔵庫が畑の下にあるのだ。それがそれぞれ7-8mほどの長さがあり、年間を通して一定の温度が保たれている。これがあるからこそ、いとうふぁーむさんは10月〜5月にかけての長い期間、さつまいもを販売することができる。これももちろん昔ながらの保存方法だ。
つまり雑木林の落葉から堆肥を作り、その堆肥から苗床を作る。そして前年収穫したさつまいもは苗になり、堆肥によっていい土でできた畑はさつまいもを大きく育ててくれる。そんな当たり前に見える自然のサイクルを昔ながらの方法で体現しているだ。そしてそれが冒頭にも書いた直売所で顔の見えるお客さんとの関係を築いている。わたしもあれから何度となく足を運ぶようになった。
そして実は、取材後にちょうどいとうふぁーむさんで芋掘りイベントもあり、参加したあとは、毎日のように食卓にさつまいも料理が並んでいた。それでも飽きずに嬉々として食べる子どもたちの顔は、食卓をいつも以上に暖かくしてくれた。好きな直売所を見つけるというのは、まちとの新しい関わり方という以上に、食卓を暖かくしてくれる重要な要素なのかもしれない。
※本企画は埼玉県NPO基金の助成を受けて実施しています。
直売所情報
いとうふぁーむ 直売所
〒364-0021
埼玉県北本市北本宿 208-14
営業日: 火・水・金・土
営業時間 : 13:00~日没
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書き手 Nariya Esaki
kosa10magazine主宰。テレビ業界からレコ屋店員を経て現在埼玉県北本市在住の二児のパパ。
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